2017.04.14

大北森林組合補助金不正受給事件の判決を受けて

1 大北森林組合事件の担当
 大北森林組合の「補助金不正受給事件」について、平成29年3月28日刑事裁判の判決が下された。私(安藤雅樹)は元専務理事の弁護人を担当した。
 この裁判では、大北森林組合が実際に施工していない森林作業道の整備を行ったものとして補助金を不正受給したという件、及び元専務理事が組合に対し水増し請求をしていたという件が問われた。
 冒頭に「補助金不正受給事件」と記したが、これはマスコミが「不正受給」と称しただけであって、私は長野県の補助金不正「支給」問題であると捉えて弁護活動を行った。
 大北森林組合及び元専務理事が補助金の不正受給をしたこと、その責任は明らかであるが、証拠を見て事実関係を検討するにつれて、その経緯に、長野県側の働きかけや関与が色濃く認められることが分かった。
 そして、長野県の職員については責任を問わず、全て元専務理事をスケープゴートにして、責任を押しつけることに強烈な違和感を感じた。誰が見ても「悪者」。100人が100人、そのように決めつける中で、違う光を当て、違う見せ方をする、それが弁護人の役割である。

2 司法の行政への断罪
 裁判官もこれに応えてくれた。県の職員8人の証人請求に対し、不必要などと難色を示すこともなく採用し、連日2日間の朝から晩までの尋問に耳を傾け、自ら厳しい補充尋問をし、そして判決では県の責任について勇気を持って触れた。
 検察官も、県の職員の尋問について不必要意見を述べることが想定されたがそれをせず、反対尋問も県の職員を責めるような尋問を含め対応した。
 その結果、この裁判は、もちろん主題は元専務理事と組合の刑事責任であるが、副題として県の責任が問われ、その副題については、法曹三者がタッグを組んだかのように、司法が行政の責任を断罪するという構造になった。これは裁判としてはきわめて珍しく、公判中に何か不思議な気分になったことを覚えている。
 この司法による断罪を、しかしながら、行政は真剣に受け止めようとはしていないようである。マスコミ報道を見る限り、知事は従前の主張を繰り返し、県の責任について判決を受けて検討し直すことは考えていないようだ。
 この判決は、行政に対する裁判官の怒りのメッセージである。これを行政に受け流されることは、裁判官の思いを考えると切ない。弁護人は常に無力感を感じる機会があるので比較的慣れているのだが、勇気を持って発したメッセージが全く聞く耳を持たれなかったことの裁判官の失望を思うと切なくなる。こういうことを通じて、裁判官の「勇気」が徐々に失われていくのかと思うと、本当に残念でならない。

3 本件の問題の中心
  本件で真に問われるべきは、県職員個人の責任ではない。補助金に関する県の予算執行のあり方である。
本件では、北安曇地方事務所は長野県本庁林務部からの予算消化のプレッシャーを受け、全ての予算を消化しなければならないということから、大北森林組合に対し補助金の申請を指導・依頼し、大北森林組合はこれを利用する形で流用目的で補助金の交付申請をしている。予算消化のために補助金を申請させるという運用、これは北安曇地方事務所に限ったものか分からないが(多分そうではないと推測するが)、ペレットストーブ申請者の間伐補助金流用、不要萌芽除去事業の流用などを考えても、この運用が常態化していたと考えざるを得ない。
  私が判決を聞いて感心したのは、裁判官がこの点に踏み込んだことである。
判決ではこのように判示している。「地方事務所林務課では、作業道の整備を通じて森林の整備をはかるという使命を果たそうとはしていたものの、降雪期で補助金の対象となる工事や作業が不可能であるのに県林務部から執行未了の予算の消化を割り当てられ、本来は補助金の交付が許されない、工事や作業が完了していない事業について補助金を交付する「闇繰越」などとも呼んでいた違法な手段を使っても予算を消化するよう迫られていたなど、予算に見合った行政サービスの提供より、数値上の予算の消化が重視されていたという事情も認められる。」
判決は、地方事務所林務課の担当職員だけの責任ではなく、県林務部の行為まで問題視して指摘しているのである。
私は、この問題は、「予算」を使い切るという県-国もそうなのであろうが-の病理体質が、根本的に問われている問題であり、県としては、その運用を見直す絶好の契機であると思う。
私は現知事について、基本的に正しい道に県政を運んでもらっていると評価している。しかし、なぜ、この問題に限っては及び腰なのだろうか。支持率が高い知事だからこそ、ここに踏み込めば、納税者・有権者としては拍手喝采の筈である。知事の責任を問われるなんてことを気にする必要もない。これはそれほどまでにアンタッチャブルな世界なのだろうか、ここにどんな事情が隠されているのか、私には想像もできない。
納税者は、公に必要な適切な事業に税金を使われると信じているのであって、予算枠を取ったからといって、何が何でも予算を使いきることを望んでいるわけではない。
そもそも予算消化をしなければいけないという建前自体が、税金の運用としては誤っているのであり、本件を教訓に、これを根本的に見直さなければいけない。判決にそのようなメッセージが込められていることは明らかである。
この裁判官の勇気あるメッセージから目を背けようとする行政の対応には、司法の一員を担っているつもりの弁護士の一人として、憤りを感じざるを得ない。

| | トラックバック (0)

2011.07.02

福島の子どもたちの集団疎開を求めて仮処分を起こしました

福島第1原発:「学校疎開」仮処分申請へ…郡山市の保護者

 東京電力福島第1原発の事故で、福島県郡山市の市立小中学校に通う児童・生徒7人の保護者が24日午後、学校生活で国際放射線防護委員会(ICRP)が示す平常時の上限を超えた被ばくの可能性が高いとして、同市に対し、学校の「疎開」を求める仮処分を福島地裁郡山支部に申し立てる。子どもへの健康影響について保護者の不安が高まっており、事故を理由に法的手段に訴える初のケースとみられる。

 ICRPは一般住民の健康影響を減らす目安として、原子力施設が平常時の場合に年間1ミリシーベルト、事故からの復旧期で年間1~20ミリシーベルトとしている。弁護団は、現状では学校生活で年間1ミリシーベルトを上回る可能性があり、生徒・児童の人格権侵害に当たると主張している。

 文部科学省は福島県内の学校などでの児童・生徒の被ばく線量の上限を当初、年間20ミリシーベルトとしたが、基準が高すぎるという保護者らの不安から年間1ミリシーベルト以下を目標とした。
(毎日新聞2011年6月24日 15時0分より)

http://fukusima-sokai.blogspot.com/

未曾有の東日本大震災、そして福島第一原発事故から3ヶ月半。
福島の子どもたちの放射線被ばくは、日々進んでいます。
しかし、行政の動きは遅い。
子どもたちの将来を守るため、もはや疎開しかない。
そのような考えから、郡山の小中学生を申立人、郡山市を相手方として、集団疎開を求める仮処分命令を申し立てました。
ブログに申立書等をアップしています。

第1回審尋期日が7月5日に福島地方裁判所郡山支部で予定されています。
裁判所に提出する署名も集めていますので、同じ思いを抱いている方は、署名をお願いいたします。
ブログに署名用紙があります。

今、全国から続々と署名が集まってきていますが、その熱い思いに心が揺れ動かされます。
その思いを裁判官に伝えられるか、裁判官を揺れ動かすことができるか、正念場です。

| | トラックバック (0)

2010.08.13

無罪判決を得ました

安曇野のさい銭盗未遂 防犯カメラ画像不鮮明で無罪

 昨年12月に安曇野市内の神社のさい銭箱からさい銭を盗もうとしたなどとして、常習累犯窃盗の罪に問われた本籍安曇野市穂高、住所不定、無職の男性被告(48)の判決公判が12日、地裁松本支部で開かれ、二宮信吾裁判官は検察側が証拠として提出した神社内の防犯カメラの画像について「(男性と)同一人物であることを証明できるものではない」として、無罪(求刑懲役4年)を言い渡した。

 判決で二宮裁判官は、写っていた人物について、眼鏡をかけているように見えるが、男性が安曇野署員から職務質問を受けた時には眼鏡を持っておらず、防犯カメラの画像も不鮮明と指摘した。

 県警捜査3課などによると、昨年12月18日午前7時すぎ、さい銭箱の防犯装置の警報音が鳴り、神社関係者が逃げる人物を追跡。110番通報を受けた安曇野署員が付近を捜索し、約1時間後、神社北約2キロの路上で逃げた人物に似た男性を発見。署員が職務質問したところ、男性が容疑を認めたといい、盗み未遂の疑いで逮捕した。

 防犯カメラには、さい銭箱の防犯装置が作動したのと同時刻に挙動不審の人物が1人写っていたという。地検松本支部は他に写っている人がいないため、この人物が犯人で、男性がこの人物と似た服装をしていて同一人物と判断。男性が10年以内に3回、盗みで実刑判決を受けて服役している事実を確認、常習累犯窃盗の罪で1月に起訴した。

 男性の弁護人の安藤雅樹弁護士(松本市)によると、男性は逮捕直後の取り調べで犯行を自白をしたが、逮捕数日後の接見時に黙秘する意向を示し、その後の捜査から黙秘。判決まで全6回の公判のうち、罪状認否があった2月の初公判から第3回公判まで黙秘を続け、7月の第4回公判の被告人質問で「身に覚えがない」と犯行を否認した。

 安藤弁護士は無罪判決について「疑わしきは罰せずという原則が忠実に守られた結果だと受け止める」と述べた。地検松本支部の星野敏支部長は「控訴も含め、今後については本庁などと検討して決める」とした。

信濃毎日新聞平成22年8月13日(金)より


昨日長野地方裁判所松本支部で常習累犯窃盗で起訴された被告人につき、無罪判決を得ました。
「疑わしきは被告人の利益に」という利益原則は刑事裁判の根本ですが、これに忠実にしたがった判決であると感じました。裁判官の勇気に敬意を表します。
また、被疑者国選制度(被疑者段階から国選で弁護人を付する制度)の導入も、いい方向に影響したと考えます。

今回の裁判では、客観的証拠は防犯ビデオしかありませんでした。指紋や掌紋、足跡、繊維などが出てきていません。
自白に頼らない客観的・科学的捜査が求められるところです。

| | トラックバック (0)

2010.02.19

裁判員裁判(松本支部1号事件)の判決

県内初の性犯罪裁判員裁判、懲役12年の判決 松本支部 2月19日(金)

 県内3例目で、性犯罪を初めて審理した裁判員裁判で、地裁松本支部(荒川英明裁判長)は18日、強盗強姦罪などに問われた飯田市鼎上山、無職森本龍司被告(40)に懲役12年(求刑懲役15年)の判決を言い渡した。判決後、裁判員を務めた男性5人、女性1人のうち30代の男性2人が記者会見。裁判官3人と裁判員が判決について非公開で話し合った評議の様子を一部明らかにした。

 今回、裁判員選任手続きや法廷では被害者の実名や住所は伏せられていた。会見した2人の説明によると、評議室では初めに、裁判官と裁判員全員が被害者の実名や住所を書面で確認。その後は実名を伏せて話し合ったという。

 男性の1人は「被害者を直接知っているわけではなく、(実名を知るかどうかで)印象は変わらなかったと思う」と説明。別の男性は「性犯罪だったので被害者の気持ちを強く思っていた時もあったが、そういう気持ちで判断してはいけないと言われ、話し合っていくうちに気持ちが変わったり、公平に判断しないといけないと思った」と話した。

 判決理由で、荒川裁判長は「被害者の人格を無視した卑劣で危険な犯行」と指摘。裁判官と裁判員からの「メッセージ」として、「家族のことを考えてまじめに刑に服し、一日も早く社会復帰してほしい」と述べた。

 藤野晃俊・地検松本支部長は「市民の意思が反映された判決を重く受け止めたい」とコメント。弁護人の安藤雅樹弁護士(松本市)は「量刑が少々重い印象」としながらも、「被告は当然の結果と受け止めている」と語った。

 判決によると、森本被告は昨年7月、飯田市の民家に侵入し、家人の女性を折り畳みナイフで脅し、現金12万円とキャッシュカード1枚を奪うなどした。

信濃毎日新聞平成22年2月19日朝刊より
http://www.shinmai.co.jp/news/20100219/KT100218FTI090025000022.htm


松本支部初で、長野県内初の性犯罪の裁判員裁判と報道された裁判を主任弁護人として担当し、昨日判決が下りました。
判決については、量刑は重いと感じましたが、判決および裁判員の会見の報道からすると、弁護側の主張はそれなりに裁判員に理解してもらったと考えています。
特に、裁判員の会見での「性犯罪だったので被害者の気持ちを強く思っていた時もあったが、そういう気持ちで判断してはいけないと言われ、話し合っていくうちに気持ちが変わったり、公平に判断しないといけないと思った」という言葉は、意を強くして受け止めました。

そのことは大前提として、このような性犯罪について、裁判員裁判の対象とすることには疑問を感じました。

①被害者にとって、被害を他人に知られることは耐え難い苦痛かと思います。裁判員が関与することによって(マスコミ報道もあり)、その心理的負担は大きくなると考えます。
②裁判員にとって、この種の裁判に関与することはトラウマを生みかねません。今回、「疲れた」「もう二度とやりたくない」と裁判員が会見で述べていた(と報道されていた)ことが印象的です。男性の裁判員が漏らした感想ですが、女性はさらに強くそう思うのではないでしょうか。
③今回、被害者の氏名や住所は明かされず、裁判員に対しても殆どそれが伏せられたまま審理が進められました。写真もそうです。これは被害者保護の観点からは仕方のないことかとも思いますが、本来、裁判とは極めてリアルなもので、リアルな被告人を裁くものです。それをバーチャルなものにしかねない、このようなやり方には危惧感を覚えます。逆に裁判員裁判という理由でそのようにしなければいけないのであれば、性犯罪は裁判員裁判の対象から外すべきと考えます。
④裁判員選任手続で裁判員候補者に被害者名は明かされないため(裁判員候補者は選任手続後、守秘義務を負わない)、被害者の関係者を裁判員から外すことが完全にできるか疑問があります。

その他、起訴から裁判まで半年以上かかったこと(対象事件でなければ、3ヵ月で判決まで至っていたと思います)、「統合捜査報告書」という検察官による二次証拠の作成、連日開廷下における被告人との接見体制など、課題が多いと思います。

あと、まだ制度が始まったばかりのせいなのでしょうが、裁判所が裁判員裁判に対し、ちょっと身構えすぎている感じはします。
刑事係の人員自体、ここ数年で倍近くに増えています。今週は月曜日から昨日まで、松本支部では民事事件・簡裁事件・家事事件も含めて全く裁判が入っていませんでした。
裁判所にとっては「黒船来襲」にも似た事態なのかもしれませんが、裁判員裁判によって、他の司法機能が低下するのでは、本末転倒としかいいようがないと考えます。

| | トラックバック (0)

2009.11.26

改正特定商取引法・割賦販売法の施行が12月1日から

改正特定商取引法・割賦販売法が12月1日から施行されます。
きわめて重要な法律改正になります。

===========================

1 施行時期
 ・平成20年6月11日成立
 ・電子メール広告規制の部分→平成20年12月1日施行
 ・本体部分→平成21年12月1日施行予定

2 概要
 ①規制の抜け穴の解消
ア 指定商品・指定役務制の廃止
イ 割賦要件の撤廃
 ②訪問販売規制の強化
ア 継続勧誘・再勧誘の禁止
イ 過量販売の撤回・解除権
 ③クレジット規制の強化
Ⅰ 民事規定
 ア 個別クレジット業者の書面交付義務とクーリングオフ
 イ 過量販売解除に係る個別クレジット契約の撤回・解除権
 ウ 不実告知等取消権と既払金返還請求権
Ⅱ 行政規制
 ア 個別クレジット業者の登録制
 イ 過剰与信防止義務
 ウ 加盟店調査義務、不適正与信の禁止
 エ 業務適正化義務
Ⅲ 認定割賦販売協会による自主規制と加盟店情報交換制度
 ④インターネット取引の規制の強化
 ⑤その他

3 改正割販法における用語の変更
 ①個品割賦購入あっせん→個別信用購入あっせん ・・契約書型クレジット
 ②総合割賦購入あっせん→包括信用購入あっせん ・・カード式クレジット
※一回払いも適用対象とされたため、割賦でないものも含まれるようになったため

 ※商品販売契約に伴い金銭消費貸借契約を利用した場合、個別信用購入あっせんに該当する。
  個別信用購入あっせんは、与信主体・与信契約の形式は問わない。
  特定の販売業者による商品の販売を条件とする与信契約と評価できること。
→実質的な取引実体が、与信契約と販売契約が手続的に一体であること、与信業者と販売業者が継続的取引関係・相互依存関係にあること

4 規制の抜け穴の解消
(1)指定商品・指定役務制の原則廃止
   訪問販売等やクレジットにおいては、原則全ての商品・役務が規制対象とされる。
ただし、金融商品取引法、宅地建物取引業法、旅行業法、弁護士法などについて適用除外となっている。その他、生鮮品や少額取引など省令で定める品目(特商法26条)。
(2)割賦要件の撤廃
   信用購入あっせんについては、割賦要件を廃止して、「2ヶ月以上の後払い」であれば1回払いでも適用対象とする。
ただし、マンスリークリア方式(翌月一括払い)は単なる決済手段の性格が強いため規制対象から除外。

5 訪問販売規制の強化
(1)拒否者に対する再勧誘の禁止
   訪問販売業者は、顧客に対し勧誘を受ける意思を確認することに努め、契約を拒否する意思を表示した者に対しては、勧誘することを禁止する(特商法3条の2)。
   違反の場合は行政規制の対象とする。すなわち、直ちに民事の効果があるわけではないが、一般条項等では用いることができる。
消費者契約においては、不招請勧誘の規制が政府の方針であり、訪問販売取引において具体化した。

(2)過量販売撤回・解除権

   訪問販売により、日常生活において通常必要とされる分量を著しく超える商品・役務を購入する契約を締結した場合、購入業者はこれを解除することができる。ただし、購入者等に当該契約の締結を必要とする特別の事情があったときはこの限りでない(特商法9条の2)。
   購入者等は、特商法9条の2に当たる販売契約に係る個別式クレジット契約の解除ができる。ただし、契約締結を必要とする特別の事情があったときはこの限りではない(割販法35条の3の12)。
   販売業者・与信業者は解除に伴う違約金等の請求ができない。
   行使期間は契約締結の日から1年以内とする。

 ●販売契約の過量販売解除の要件
  ①訪問販売により
cf.展示会の場合も訪問販売に当たる場合があるので、要注意。
②通常必要とされる分量を著しく超える
   特別な事情がなければ、一般消費者が行う事態がまれにしか生じないような取引。
具体的な基準は、政省令・ガイドライン等で定めていない。
訪問販売の業界団体が「過量販売とならない目安」を定めている(HPで公表)。
→過量販売は原則として解除できるが、その購入者に商品購入の特別の必要性があることを販売業者が証明したときは有効とされることから、立証責任の転換が相当といえる程度という観点で解釈すべきである。
※過量販売契約となるか否かの判定材料は、過去1年以内に限定しない。
③解除権の制限
 購入者等に当該契約の締結を必要とする特別の事情があったこと
 →販売業者側の反証が必要になる。
④契約締結の日から1年間の行使期間

 ●過量販売の類型と解除
①1回の契約で過料販売した場合 →全部解除を認める
②同一業者が複数回の契約で過量販売した場合 →著しく超えた以降の契約解除を認める。
③複数業者が次々と契約して過量販売した場合
 →既に著しく超えた契約があることを知りながら契約を締結したことを要件に契約解除を認める。
※過量となる以前の取引でも判断能力の低下や支払い能力の無視などの事情と相まって、公序良俗違反という評価もあり得る。

 ●個別クレジット契約の過量販売解除の要件 (極めて簡潔)
  ①販売契約が特商法上の過量販売に当たること
   ※過去の販売契約がクレジット利用であることは要件ではない。
  ②個別クレジット契約を利用したこと。
   クレジット業者には過量性の認識は要件とされていない。
    →調査により適合性に反する過量販売を把握し防止すべき義務がある。
    →過去の商品販売が把握できない場合でも、個別クレジット業者は加盟店による不当勧誘行為の責任を負う。  
   個別クレジット契約の締結に際し、個人信用情報の利用義務があり、調査により適合性に反する過量販売を把握し防止すべき義務がある。

 ●行使方法
・書面による通知は不要
・到達時に効力発生
・行使期間は、契約締結時から1年以内
  →購入者は販売業者への販売契約解除とクレジット業者への個別クレジット契約の解除の通知を同時に行うことが基本になる。

 ●効果
  ①クレジット業者は購入者に対し違約金等の請求ができない。
  ②クレジット業者は購入者に対し立替金相当額の不当利得返還の請求ができない。
③販売業者は立替金をクレジット業者に返還する義務を負う。
④クレジット業者は購入者に対し既払い金の返還義務を負う。
⑤クレジット契約の解除の後に販売契約を解除したとき、販売業者から購入者へ返還する金銭は、クレジット業者の立替金を除く頭金等

6 クレジット規制の強化
(1)個別式クレジット業者の登録制と行政規制

(2)個別クレジット契約の書面交付義務とクーリングオフ
  個別式クレジット業者は、訪問販売等(5類型。通信販売は除く)の販売契約について個別式クレジット契約を締結したときは、クレジット契約書面の交付義務を負う。
また、この場合に、クーリングオフを適用する。
※旧法では、書面交付義務はなく、抗弁対抗により未払い分について支払い拒絶ができるに過ぎなかった。

 ●書面交付義務
①特商法上の訪問販売等
②商品販売契約について申し込みを受けたとき、申し込み書面の交付義務
③個別クレジット契約を締結したとき、契約書面の交付義務
④書面記載事項

 ●クーリングオフ
ア 要件
 ①訪問販売等
 ②契約書面受領日(その前に申込書面を受領したときは申込書面の受領日)から8日間
イ 行使方法
 ①書面による通知
 ②販売業者と個別クレジット業者の両方に通知書を送るのが原則だが、クレジット業者にのみ送付した場合でも、販売契約に対する解除の効力が認められる。
ウ 効果

エ 適用除外等
 ①乗用自動車等
 ②葬儀など
 ③化粧品・健康食品等のいわゆる消耗品
 ④現金取引で3000円に満たない場合

オ 書面の記載不備とクーリングオフ
 ①販売契約書面に記載不備あり、クレジット書面に記載不備あり
  →どちらもクーリングオフ可能
 ②販売契約書面に記載不備あり、クレジット書面に記載不備なし
  →販売についてクーリングオフ可能、クレジット未払い金に付き抗弁対抗
 ②販売契約書面に記載不備なし、クレジット書面に記載不備あり
  →クレジットについてクーリングオフ可能、加えて、効力連動により販売契約も見なしクーリングオフができる。

(3)適正与信義務
①販売方法調査義務(個別クレジット)
 販売契約の勧誘方法について調査義務を負い、不当勧誘行為による販売契約については与信契約を禁止する。特商法で禁止され消費者契約法で取消原因とされている行為(不実告知等)を確認した場合はクレジット契約の申し込み又は承諾を禁止する。行政処分の対象になる。
 加盟店契約時、個別契約審査時、苦情発生時などにそれぞれ義務が生じる。
 再調査の義務が発生する、ということで苦情を申し立てることも有効。
②業務適正化義務(包括・個別クレジット)
  ①信用情報の適正な取扱、②あっせん業務を第三者に委託した場合の適正化、③苦情の適正かつ迅速な処理をすべき義務を負う。

●適正与信義務違反の民事効果
 →義務違反があるときは損害賠償責任の根拠となりうる。
ただし、訪問販売等については契約の取消・解除があるので、過失責任を検討する実益はなく、店舗販売・通信販売の場合や債務不履行解除の場合など、契約の取消・解除の規定が適用されない場面で検討する意義がある。

(4)個別式クレジット契約の不実の告知等取消権
個別式クレジット契約を利用した訪問販売等の契約締結に際し、商品販売契約又はクレジット契約に関する不実の告知または故意の事実不告知により誤認して契約したときは、販売契約とともに個別式クレジット契約を取り消すことができる。

※既払い金返還責任を導入する考え方
 ①不可分一体性論→否定
 ②適正与信義務違反による損害賠償責任説
  →クレジット業者の過失の立証の困難性
 ③媒介者の法理(消費者契約法5条)
個別クレジットにおいては、加盟店がクレジット契約の契約条件の交渉、契約書の作成・提出の業務をクレジット会社から委託されており媒介者に当たる。
 
 ●要件
  ①個別クレジット契約の利用
※包括クレジット契約には取消規定の適用なし。
ただし、落合誠一「消費者契約法」有斐閣の中に、媒介者が不実告知等をした場合に、一部分であっても決定的な誤認を与えた場合には適用の余地がある、と記載されているので、消費者契約法5条(媒介者の法理)の適用も考えられる。
  ②訪問販売等
   ※店舗取引・通信販売の場合、割賦販売法の直接適用はないが、消費者契約法4条4項の重要事項の解釈に関する例示説・拡張説の考え方によれば、法35条の3の13は消費者契約法との関係で確認的規定と解され、消費者契約法5条が直接適用できる可能性はある。
  ③不実の告知又は故意の事実不告知があるとき
→クレジット支払総額、支払い月額・時期のほか、商品の品質等、解除に関する事項、その他クレジット契約又は販売契約の重要事項について。
 なお、不退去・退去妨害による困惑類型については規定はないが、消費者契約法5条の直接適用が可能(国会答弁)。
  ④クレジット業者に過失があることは要しない(無過失責任)。

※債務不履行解除の場合→後発的な原因は契約締結過程の瑕疵に当たらず、クレジット契約の取消事由とならない。
 →未払い金に付き抗弁対抗しかない(35条の3の19)。
後は、販売方法調査義務違反の可能性、業務適正化義務違反による既払い金返還の可能性。

 ●効果
  ①個別クレジット業者から購入者に対する立替代金相当額請求の禁止
②販売業者から個別クレジット業者に対する立て替え代金返還債務
③購入者から個別クレジット業者に対する既払い金返還請求権

(5)過剰与信の禁止
クレジット契約の締結に際し、「年収、預貯金、クレジット債務、その他購入者の個別支払い可能見込額の算定に必要な事項」を調査しなければならない。
個別支払い可能見込額を超える個別クレジット契約の締結を禁止。
指定信用情報機関の利用義務、与信調査記録の作成保管義務。

(6)認定割賦販売協会の設置と加盟店情報報告制度
・加盟店の情報の共有の制度
・認定割賦販売協会への報告制度が設けられる。

7 その他
(1)事前承諾がない者に対する迷惑広告メールの送信禁止
   平成20年12月に先行して施行されている。
(2)通信販売における解約返品制度
通信販売において、返品に可否や条件に関する特約を広告に表示していないときは、8日間の契約解除を認める。返還費用は購入者の負担とする。
クーリングオフとは違う(無条件ではなく広告に解約を制限する表示があれば其れが優先する。また、返還費用は購入者の負担)。
(3)消費者団体訴訟制度の適用拡大

8 残された課題
(1)店舗販売への既払い金返還ルールの拡大
(2)倒産型被害への既払い金返還ルールの拡大
(3)包括クレジット(クレジットカード)規制の強化
   ・被害の傾向が包括クレジットに流れつつある。
(4)マンスリークリアへの適用
(5)クレジットの国際化への対応

| | トラックバック (0)

2009.09.08

アパート更新料返還認める(大阪高裁)

 アパート更新料などの返還を家主側に求めた訴訟の控訴審判決が8月27日に大阪高裁であり、同高裁は請求を退けた一審・京都地裁判決を変更し、家主側に45万5,000円の支払いを命じた。高裁判決で、借主側の更新料等の返還主張が認められたのは初。

 大阪高裁は本件更新料について、賃料以外に対価性の乏しい金銭的給付を義務付けるものであるから借主の義務を加重するものであることと、更新料の額が月額賃料の2カ月分余りで高額であること、さらに借主と家主の情報収集力に格差があることなどから、本件更新料条項は、消費者契約法10条に該当し、無効であるとした。

http://www.asahi.com/housing/jutaku-s/JSN200908270001.html

大阪高裁平成21年8月27日判決。
更新料の支払はこれまで賃貸借業界では当たり前のように行われてきた。
これについて、関西を中心に訴訟が相次いでおり、ついに大阪高裁で更新料に関する契約条項が消費者契約法10条に違反し無効であることを認めた。
但し、更新料が毎年支払うもので、相当高額であるという事実認定が結論に影響していると思われ、一般化できるかは疑問である。
長野県などでは、更新料を取らない業者も多いし、取るとしても2年に1回という業者が多い。
最高裁判決が注目されるが、もしこれを維持した場合、全国で更新料返還の動きが活発になるだろう。

なお、消費者契約法は平成13年4月に施行された法律であるため、その前に締結された契約に基づいて支払った更新料についてはストレートには適用されない(民法90条などを介する必要があるが困難が予想される)。
他方、平成13年4月より後に更新された後の契約に基づいて支払った更新料については、消費者契約法が適用されると考えられる。

| | トラックバック (0)

2008.12.01

裁判員裁判「延期」「見直し」決議

http://www.shinmai.co.jp/news/20081130/KT081129FTI090007000022.htm
(信濃毎日新聞平成20年11月30日紙面より引用)

 県弁護士会(147人、北川和彦会長)は29日、長野市で臨時総会を開き、来年5月に導入される裁判員制度について「実施か、延期か」を問う決議を行った。制度を施行した上で関係機関に課題の解決を求める執行部提出の「実施案」を賛成多数で採択。制度に反対する弁護士が提出した「延期案」は賛成少数で不採択となった。

 全国の弁護士会ではこれまでに新潟、栃木が裁判員制度の延期決議案を採択、仙台、埼玉は不採択としている。

 臨時総会は冒頭を除き非公開。県弁護士会によると出席者86人は挙手、欠席者は委任状による投票で賛否を示した。結果は、延期案が賛成57、反対66、棄権13。実施案は賛成76、反対42、棄権16、不明2だった。

 ほかに2人の弁護士が、死刑や無期懲役を刑に含む罪を少なくとも3年間、裁判員裁判の対象としないことを求める決議案を提出したが、賛成47、反対73、棄権16で不採択となった。

 延期案は同会所属の弁護士25人が提出。裁判員制度は憲法に違反し誤判を招くなどとして、施行を相当期間、延期するよう求めた。これに対し、執行部は制度実施を前提に拙速な裁判の回避や取り調べの可視化を求め、実施案を提出していた。

長野県弁護士会の臨時総会で、裁判員裁判の「延期」「見直し」決議を提案しました。
提案理由は、①憲法上の問題の議論不足、②誤判の可能性、③拙速な審理、④国民の思想良心の自由、⑤裁判員裁判への準備不足、⑥国民の支持・理解不足です。
結論的には否決されましたが、議論できた意味は大きかったと思います。また、多くの弁護士の賛同を得て、あと一歩の所まで迫れたことは、危機感を共有できたという意味で嬉しく思います。
執行部案も裁判員法施行までの「改善」を求めるものです。
どこまで刑事手続について改善がなされるか、見守りたいと思います。

| | トラックバック (0)

2008.11.28

裁判員候補者へ通知書発送

本日11月28日、裁判員候補者へ通知書が発送されます。
有権者350人に1人の確率とのことです。

間違いなく想像できるのは、これを利用した架空請求詐欺が発生することと、
通知書の届いた人が、ブログなどで公開することです。

ちなみに、裁判員候補者になったことを公表することは裁判員法に反する恐れがあります。
「何人も、・・裁判員候補者・・の氏名、住所その他の個人を特定するに足りる情報を公にしてはならない」(裁判員法101条)と定められているからです。
このことからすると、裁判員候補者となったことを自身で公表することすら、認められていないのです。

この裁判員裁判は、裁判員となる市民に、かなりの負担と義務を課すものです。
その覚悟はありますでしょうか・・?


明日、長野県弁護士会の臨時総会が開かれます。
そこで一つの提案をしたいと考えております。
裁判員裁判の実施時期の延期と見直しを求める提案です。

| | トラックバック (0)

2008.09.24

被害者参加人のための国選弁護

「被害者参加人のための国選弁護」が平成20年12月1日より始まる。
殺人、傷害、強制わいせつ・強姦、自動車運転過失致死傷等、逮捕・監禁、略取・誘拐、人身売買等、一定の犯罪の被害者等であって、かつ、資力の乏しい被害者参加人を対象に、「被害者参加弁護士」を国選で選ぶことができるとする制度。

弁護士が検察官の横に座る。
刑事司法を根本から見直す制度が、裁判員制度より一足早く、始まることになる。

| | トラックバック (0)

2007.05.18

自動車運転過失致死傷罪の新設

 過失による自動車事故の罰則を強化するため新たに「自動車運転過失致死傷罪」を設ける改正刑法が、17日午後の衆院本会議で全会一致で可決、成立した。罰則は「懲役・禁固7年以下または罰金100万円以下」で、現行の業務上過失致死傷罪(懲役・禁固5年以下または罰金100万円以下)より重い。2輪車を含めて適用される。 (5月17日時事通信より)

6月にも施行されるとのこと。
上限が5年から7年へ、2年上がった形になる。
危険運転致死傷罪も新設されて余り日が経たない中、結果の重大性だけに目をとらわれて、過失犯と故意犯の違いということが考慮されなくなってしまうのではないか、という危惧を抱く。

| | トラックバック (0)

«任意性確保のため?